「地域活性化の切り札」


民主党政権「新成長戦略」のひとつに観光立国がある
ようだが、訪日外国人の目標数字が他国と比べかなり
少ない。GDPの押し上に寄与するとして期待されて
いるが、かなり本腰を入れてこの政策に取り組んで
もらいたい。特に地域偏在の問題を重要課題とし、
地方経済の活性化に繋げていかなければならない。



戦略の中心は「訪日外国人を2020年までに2500万人
、将来的には3000万人まで伸ばすこと」とある。

「観光庁の推計によれば、国内の旅行消費総額は、訪
日外国人による国内消費額も含め、08年度で23・6
兆円である。その波及効果を勘案した付加価値誘発額
は26・5兆円で、同じ年度の名目国内総生産(GDP)の
5・3%を占めている。

問題となるのは訪日外国人によるわが国での旅行消費
額だが、それは23・6兆円の国内旅行消費総額のうち
1・3兆円である。今後訪日外国人の増加によって伸び
ると期待されるのはまさにこの部分だが、どのくらい
のびて、GDPをどの程度押し上げるのだろうか。

それを試算してみよう。試算の対象となった08年度の
訪日外国人数は日本政府観光局によると777万人であ
る。仮に20年の訪日外国人数が2500万人になると、
08年度の約3・2倍になる計算である。今、訪日外国
人1人辺りの平均消費額およびその消費によってもた
らされる付加価値誘発率(ここでは付加価値誘発額で
割った値で試算)は変わらないとしよう。

その場合には1・3兆円(08年度の訪日外国人消費額)
×3・2倍(外国人増加倍率)×1・12(誘発係数)と
いう計算で、約4・7兆円の付加価値額が誘発される
ことになる。付加価値誘発額4・7兆円は、GDPの1%
弱である。

GDPの1%弱という数字は微妙な規模ではないだろうか
。今のわが国では1%の安定成長がなかなかむずかしい
状況だから、4・7兆円はそれなりの力を発揮するとい
えないわけではない。しかし、2500万人まで伸びる
には10年かかる以上、目標年次以前の毎年の寄与は、
それをさらに下回ることになる。訪日外国人による
国内消費押し上の寄与は、絶対的な規模としては決し
て大きなものではないのである。

もう一つ問題となるのは、訪日外国人の地域偏在である
。宿泊旅行統計調査によれば、訪日外国人の多くは東京
都を中心とする大都会に宿泊する傾向が強い。その傾向
が続けば、地方経済への直接的効果はさらに薄れる事に
なる。「地域」活性化の主たる狙いは大都市以外の地方
活性化にあるが、こうした状況で2500万人の訪日外国
人が「地域活性化の切り札」となるのだろうか。

もし観光庁の08年度推計が正しくて、かつ2500万人の
訪日外国人が確保できれば、それはある程度の力には
なるだろう。しかし地域の活性化には不十分、という
結果になる可能性が高い。まして我が国経済全体の救
世主としては力不足なのである。では、観光は、わが国
経済の救世主にはならないのだろうか。

以上の試算の最大の問題点は「2500万人」という目標
数字が低すぎることである。日本政府観光局によれば、
08年に国債観光客到着数が世界で最も多かった国は
フランスで、その数は7930万人。第2位以下は、米国
(5803万人)、スペイン(5732万人)、中国(5305
万人)の順で、さらにイタリア(4273万人)、英国
(3019万人)が続いている。

このうちフランスとスペインは、国内人口を上回る国際
観光客を受け入れている。(09年版「国際観光白書」)
これらの国々の国際観光収入はまた、いずれも巨額であ
る。世界最大の国際観光収入を得ている米国では、08
年で11・3兆円を稼いでいる。以下、スペイン6・3兆円
、フランス5・7兆円、中国4・2兆円と続いている。

(国際旅客運賃を含まないベース)。同じ基準による
我が国の国際観光収入は、同時期で1・1兆円と中国の
約4分の1にとどまっている。アジアの中では、中国だ
けでなく、タイ、香港、マレーシア、マカオ、インドに
も負けている。

GDPとの対比を考えてみよう。世界旅行産業会議(W
TTC)は世界経済にに対する観光産業の貢献度について
、定期的に予測値を発表している。これによると、観光
産業が世界全体で生み出す付加価値は、08年の世界の
GDPの約9・9%に達すると見込まれている。

この数値は、観光産業として定義されてた業界の生み出
す付加価値であり、前述の国内観光消費が生み出す付加
価値とは厳密には異なっており、しかも予測値だから実
績値とは区別して扱う必要がある。とはいえ、一般にG
DPに占める観光産業のウエートが、世界平均で約1割あ
り、比率は概して先進国で高いことは広く認められてい
る。

そうした状況からすると、わが国の観光の寄与度はあま
りに低い。そしてその基本的理由は、訪日外国人が極端
に少ないことにある。わが国では、フランス、スペイン
、イタリア、英国といった国々より、人口も経済規模も
大きいから、国際観光が経済に対してある程度のインパ
クトを与えるためには、最低限、絶対数でこれらの国々
の国際観光客数を上回る必要がある。

つまり、1憶2700万人の人口を擁するわが国が、もし
本気で「観光立国」を目指すのであれば、訪日外国人
2500万人では少なすぎるのである。あえて目標数字を
揚げるとすれば、訪日外国人は、1億人を目指すべきだ
ろう。

勿論その1億人は、直ちに達成できるわけではない。
そこで中間目標として20年に5000万人としてはどう
か。その数字は決して夢物語ではない。

世界観光機関(UNWTO)の予測によれば、国際観光
客数は、10年に10・1億人、20年に15・6億人と、今
後10年間で飛躍的に伸びる。しかもその中心は東アジア
である。わが国を取り巻く東アジアの環境はここ数年
劇的に変わってきた。何よりも中国をはじめとする周辺
諸国の所得上昇が続いている。それは潜在的な訪日観光
需要を急激に膨らませている。現に本年1~5月の訪日
外国人数は、前年同期比32%増の高い伸びを記録して
いる。

仮に訪日外国人5000万人が実現すれば、諸費額は前述
の試算の倍になる。その場合には誘発係数はもっとずっ
と大きくなるだろう。なぜなら、外国人が宿泊するため
のホテルやショッピングモールの新増設をはじめとして
、大きな設備投資が誘発されると考えられるからである。

そもそも、目標数字とは自然に実現できるような数字で
はなく、工夫と努力の結果として実現できるものでなけ
ればいけない。そうだとすれば2500万人はあまりに低
い。1億人という目標を掲げ、その数字を本気で目指す
ことを国民が確信したとき、投資が本格的に動き出す。

海外の人々は必ず来る。「20年に5000万人、将来的には
1億人」という目標を掲げて誘致に励み、受け入れ態勢を
整えれば、観光は、日本経済だけでなく、日本社会を変え
る力を発揮するだろう。

額賀真(ぬかが まこと:46年東大法卒、オックスフォー
ド大学経済学修士。日銀を経てちばぎん総合研究所会長)
日本経済新聞「観光立国ー日本の戦略を問う」
2010/08/18

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